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展示動物の飼養及び保管に関する基準
平成16年4月30日
環境省告示第 33号
一部改正 平成18年1月20日
第1 一般原則
1 基本的な考え方
管理者及び飼養保管者は、動物が命あるものであることにかんがみ、展示動物の生態、習性及び生理並びに飼養及び保管の環境に配慮しつつ、愛情と責任をもって適正に飼養及び保管するとともに、展示動物にとって豊かな飼養及び保管の環境の構築に努めること。また、展示動物による人の生命、身体又は財産に対する侵害の防止及び周辺の生活環境の保全に努めるとともに、動物に関する正しい知識と動物愛護の精神の普及啓発に努めること。
2 動物の選定
管理者は、施設の立地及び整備の状況並びに飼養保管者の飼養能力等の条件を考慮して飼養及び保管する展示動物の種類を選定するように努めること。また、家畜化されていない野生動物等に係る選定については、希少な野生動物等の保護増殖を行う場合を除き、飼養及び保管が困難であること、譲渡しが難しく飼養及び保管の中止が容易でないこと、人に危害を加えるおそれのある種又は原産地において生息数が少なくなっている種が存在すること、逸走した場合は人への危害及び環境保全上の問題等が発生するおそれが大きいこと等を勘案しつつ、慎重に検討すべきであること。
3 計画的な繁殖等
管理者は、みだりに繁殖させることにより展示動物の適正な飼養及び保管等に支障が生じないよう、自己の管理する施設の収容力、展示動物の年齢、健康状態等を勘案し、計画的な繁殖を行うように努めること。また、必要に応じて、去勢手術、不妊手術、雌雄の分別飼育等その繁殖を制限するための措置又は施設への譲渡し若しくは貸出しの措置を適切に講ずるように努めること。さらに、遺伝性疾患が生じるおそれのある動物を繁殖の用に供さないように努めるとともに、遺伝性疾患が生じるおそれが高いことから過度な近親交配を行わないように努めること。
4 終生飼養等
管理者は、希少な野生動物等の保護増殖を行う場合を除き、展示動物が終生飼養されるよう努めること。ただし、展示動物が感染性の疾病にかかり、人又は他の動物に著しい被害を及ぼすおそれのある場合、苦痛が甚だしく、かつ、治癒の見込みのない疾病にかかり、又は負傷をしている場合、甚だしく凶暴であり、かつ、飼養を続けることが著しく困難である場合等やむを得ない場合は、この限りではない。なお、展示動物を処分しなければならないときは、動物が命あるものであることにかんがみ、できるだけ生存の機会を与えるように努めること。また、やむを得ず殺処分しなければならないときであっても、できる限り、苦痛(恐怖及びストレスを含む。以下同じ。)を与えない適切な方法を採るとともに、獣医師等によって行われるように努めること。
第2 定義
この基準において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1)動物 哺乳類、鳥類又は爬虫類に属する動物をいう。
(2)展示 飼養及び保管している動物を、不特定の者に見せること又は触れ合いの機会を提供することをいう。
(3)販売 事業者が、動物を譲り渡すことをいう(無償で行うものを含む。)。
(4)展示動物 次に掲げる動物をいう。
ア 動物園、水族館、植物園、公園等における常設又は仮設の施設において飼養及び保管する動物(以下「動物園動物」という。) イ 人との触れ合いの機会の提供 、興行又は客よせを目的として飼養及び保管する動物(以下「触れ合い動物」という。)
ウ 販売又は販売を目的とした繁殖等を行うために飼養及び保管する動物(畜産農業に係るもの及び試験研究用又は生物学的製剤の製造の用に供するためのものを除く。以下「販売動物」という。)
エ 商業的な撮影に使用し、又は提供するために飼養及び保管する動物(以下「撮影動物」という。)
(5)施設 動物を飼養及び保管するための施設をいう。
(6)管理者 展示動物又は施設を管理する者(販売動物の販売を仲介する者を含む。)をいう。
(7)飼養保管者 展示動物の飼養及び保管の作業に従事する者をいう。
第3 共通基準
1 動物の健康及び安全の保持
(1)飼養及び保管の方法
管理者及び飼養保管者は、動物の飼養及び保管に当たっては、次に掲げる事項に留意しつつ、展示動物に必要な運動、休息及び睡眠を確保するとともに、健全に成長し、かつ、本来の習性が発現できるように努めること。
ア 展示動物の種類、数、発育状況及び健康状態に応じて適正に給餌及び給水を行うこと。また、展示動物の飼養及び保管の環境の向上を図るため、種類、習性等に応じ、給餌及び給水方法を工夫すること。
イ 動物の疾病及び負傷の予防等日常の健康管理に努めるとともに、疾病にかかり、若しくは負傷し、又は死亡した動物に対しては、その原因究明を含めて、獣医師による適切な措置が講じられるようにすること。また、傷病のみだりな放置は、動物の虐待となるおそれがあることについて十分に認識すること。
ウ 捕獲後間もない動物又は他の施設から譲り受け、若しくは借り受けた動物を施設内に搬入するに当たっては、当該動物が健康であることを確認するまでの間、他の動物との接触、展示、販売又は貸出しをしないようにするとともに、飼養環境への順化順応を図るために必要な措置を講じること。
エ 群れ等を形成する動物については、その規模、年齢構成、性比等を考慮し、できるだけ複数で飼養及び保管すること。
オ 異種又は複数の展示動物を同一施設内で飼養及び保管する場合には、展示動物の組合せを考慮した収容を行うこと。
カ 幼齢時に社会化が必要な動物については、一定期間内、親子等を共に飼養すること。
キ 疾病にかかり、若しくは負傷した動物、妊娠中の若しくは幼齢の動物を育成中の動物又は高齢の動物については、隔離し、又は治療する等の必要な措置を講ずるとともに、適切な給餌及び給水を行い、並びに休息を与えること。
(2)施設の構造等
管理者は、展示動物の種類、生態、習性及び生理に適合するよう、次に掲げる要件を満たす施設の整備に努めること。特に動物園動物については、当該施設が動物本来の習性の発現を促すことができるものとなるように努めること。
ア 個々の動物が、自然な姿勢で立ち上がり、横たわり、羽ばたき、泳ぐ等日常的な動作を容易に行うための十分な広さと空間を備えること。また、展示動物の飼養及び保管の環境の向上を図るため、隠れ場、遊び場等の設備を備えた豊かな飼養及び保管の環境を構築すること。
イ 排せつ場、止まり木、水浴び場等の設備を備えること。
ウ 過度なストレスがかからないように、適切な温度、通風及び明るさ等が保たれる構造にすること、又はそのような状態に保つための設備を備えること。
エ 屋外又は屋外に面した場所にあっては、動物の種類、習性等に応じた日照、風雨等を遮る設備を備えること。 オ 床、内壁、天井及び附属設備は、清掃が容易である等衛生状態の維持及び管理が容易な構造にするとともに、突起物、穴、くぼみ、斜面等により傷害等を受けるおそれがないような構造にすること。
(3)飼養保管者の教育訓練等
管理者は、展示動物の飼養及び保管並びに観覧者又は購入者等への対応が、その動物の生態、習性及び生理についての十分な知識並びに飼養及び保管の経験を有する飼養保管者により、又はその監督の下に行われるように努めること。また、飼養保管者に対して必要な教育訓練を行い、展示動物の保護、展示動物による事故の防止及び観覧者等に対する動物愛護の精神等の普及啓発に努めること。
2 生活環境の保全
管理者及び飼養保管者は、展示動物の排せつ物等の適正な処理を行うとともに、施設を常に清潔にして悪臭や害虫等の発生防止を図ることにより、動物のみならず人の生活環境の保全にも努めること。
3 危害等の防止
(1)施設の構造並びに飼養及び保管の方法
管理者及び飼養保管者は、展示動物の飼養及び保管に当たり、次に掲げる措置を講じることにより、展示動物による人への危害及び環境保全上の問題等の発生の防止に努めること。
ア 施設は、展示動物が逸走できない構造及び強度とすること。
イ 施設の構造並びに飼養及び保管の方法は、飼養保管者が危険を伴うことなく作業ができるものとすること。
ウ 施設について日常的な管理及び保守点検を行うとともに、定期的に巡回を行い、飼養及び保管する展示動物の数及び状態を確認すること。
(2)有毒動物の飼養及び保管
管理者は、毒蛇等の有毒動物を飼養及び保管する場合には、抗毒素血清等の救急医薬品を備えるとともに、医師による迅速な救急処置が行える体制を整備し、展示動物による人への危害の発生の防止に努めること。
(3)逸走時対策
ア 管理者及び飼養保管者は、動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)第26条第1項に規定する特定動物その他の大きさ、闘争本能等にかんがみ人に危害を加えるおそれが高い動物(以下「人に危害を加える等のおそれのある展示動物」という。)が逸走した場合の措置についてあらかじめ定め、逸走時の人への危害及び環境保全上の問題等の発生の防止に努めること。
イ 管理者及び飼養保管者は、人に危害を加える等のおそれのある展示動物が逸走した場合には、速やかに観覧者等の避難誘導及び関係機関への通報を行うとともに、逸走した展示動物の捕獲等を行い、展示動物による人への危害及び環境保全上の問題等の発生の防止に努めること。
(4)緊急事態対策
管理者は、関係行政機関との連携の下、地域防災計画等との整合を図りつつ、地震、火災等の緊急事態に際して採るべき措置に関する計画をあらかじめ作成するものとし、管理者及び飼養保管者は、緊急事態が発生したときは、速やかに、展示動物の保護並びに展示動物の逸走による人への危害及び環境保全上の問題等の発生の防止に努めること。
4 人と動物の共通感染症に係る知識の習得等
飼養保管者は、人と動物の共通感染症及びその予防に関する十分な知識及び情報を習得するように努めること。また、展示動物の飼養及び保管に当たっては、自らの感染のみならず、観覧者への感染を防止するため、感染の可能性に留意しつつ、不適切な方法による接触を防止し、排せつ物等を適切に処理するように努めること。さらに、展示動物に接触し、又は動物の排せつ物等を処理したときは、手指等の洗浄を十分に行い、必要に応じて消毒を行うように努めること。
管理者は、人と動物の共通感染症及びその予防に関する十分な知識及び情報を習得するように努めること。また、感染性の疾病の発生時に、必要な対策が迅速に行えるよう公衆衛生機関等との連絡体制を整備するように努めること。
5 動物の記録管理の適正化
管理者は、展示動物の飼養及び保管の適正化並びに逸走した展示動物の発見率の向上を図るため、名札、脚環又はマイクロチップ等の装着等個体識別措置を技術的に可能な範囲内で講ずるとともに、特徴、飼育履歴、病歴等に関する記録台帳を整備し、動物の記録管理を適正に行うように努めること。
6 輸送時の取扱い
管理者及び飼養保管者は、展示動物の輸送に当たっては、次に掲げる事項に留意しつつ、展示動物の健康及び安全の確保並びに展示動物による人への危害及び環境保全上の問題等の発生の防止に努めること。
(1)展示動物の疲労及び苦痛を軽減するため、できるだけ短い時間により輸送できる方法を採るとともに、必要に応じ適切な休憩時間を確保すること。
(2)展示動物の種類、性別、性質等を考慮して、適切に区分して輸送する方法を採るとともに、輸送に用いる車両、容器等は、展示動物の安全の確保、衛生の管理及び逸走の防止を図るために必要な規模及び構造のものを選定すること。
(3)適切な間隔で給餌及び給水を行うとともに、適切な換気及び通風により適切な温度及び湿度を維持すること。
7 施設廃止時の取扱い
管理者は、施設の廃止に当たっては、展示動物が命あるものであることにかんがみ、できるだけ生存の機会を与えるように努め、飼養及び保管している展示動物を他の施設へ譲り渡すように努めること。
やむを得ず展示動物を殺処分しなければならない場合は、できる限り、苦痛を与えない適切な方法を採るとともに、獣医師等によって行われるように努めること。
第4 個別基準
1 動物園等における展示
管理者及び飼養保管者は、動物園動物又は触れ合い動物を飼養及び保管する動物園等における展示については、次に掲げる事項に留意するように努めること。
(1)展示方法
動物園動物又は触れ合い動物の展示に当たっては、次に掲げる事項に留意しつつ、動物本来の形態、生態及び習性を観覧できるようにすること。
ア 障害を持つ動物又は治療中の動物を展示する場合は、観覧者に対して展示に至った経緯等に関する十分な説明を行うとともに、残酷な印象を与えないように配慮すること。
イ 動物園動物又は触れ合い動物の飼養及び保管を適切に行う上で必要と認められる場合を除き、本来の形態及び習性を損なうような施術、着色、拘束等をして展示しないこと。
ウ 動物に演芸をさせる場合には、演芸及びその訓練は、動物の生態、習性、生理等に配慮し、動物をみだりに殴打し、酷使する等の虐待となるおそれがある過酷なものとならないようにすること。
エ 生きている動物を餌として与える場合は、その必要性について観覧者に対して十分な説明を行うとともに、餌となる動物の苦痛を軽減すること。
オ 動物園動物又は触れ合い動物を展示施設において繁殖させる場合には、その繁殖が支障なく行われるように、適切な出産及び営巣の場所の確保等必要な条件を整えること。
カ 動物園等の役割が多様化している現状を踏まえ、動物の生態、習性及び生理並びに生息環境等に関する知見の集積及び情報の提供を行うことにより、観覧者の動物に関する知識及び動物愛護の精神についての関心を深めること。
(2)観覧者に対する指導
動物園動物又は触れ合い動物の観覧に当たっては、観覧者に対して次に掲げる事項を遵守するように指導すること。
ア 動物園動物又は触れ合い動物にみだりに食物等を与えないこと。
イ 動物園動物又は触れ合い動物を傷つけ、苦しめ、又は驚かさないこと。
(3)観覧場所の構造等
ア 人に危害を加えるおそれ等のある動物園動物が観覧者に接触することができない構造にするとともに、動物園動物を観覧する場所と施設との仕切りは観覧者が容易に越えられない構造にすること。
イ 自動車を用いて人に危害を加えるおそれのある動物園動物を観覧させる場合は、自動車の扉及び窓が常時閉まる構造のものを使用するとともに、観覧者に対して、自動車の扉及び窓を常時閉めておくように指導すること。また、施設内の巡視その他観覧者の安全の確保に必要な措置を講ずること。
(4)展示場所の移動
短期間に移動を繰り返しながら仮設の施設等において動物園動物又は触れ合い動物を展示する場合は、一定の期間は移動及び展示を行わず、特定の場所に設置した常設の施設において十分に休養させ、健全に成長し、及び本来の習性が発現できるような飼養及び保管の環境の確保に努めること。また、移動先にあっても、第3の1の(2)に定める施設に適合する施設において飼養及び保管するとともに、その健康と安全の確保に細心の注意を払うこと。さらに、人に危害を加えるおそれ又は自然生態系に移入された場合に環境保全上の問題等を引き起こすおそれのある展示動物については、第3の3の定めに基づき、人への危害及び環境保全上の問題等の発生の防止に努めること。
(5)展示動物との接触
ア 観覧者と動物園動物又は触れ合い動物が接触できる場合においては、その接触が十分な知識を有する飼養保管者の監督の下に行われるようにするとともに、人への危害の発生及び感染性の疾病への感染の防止に必要な措置を講ずること。
イ 観覧者と動物園動物及び触れ合い動物との接触を行う場合には、観覧者に対しその動物に過度な苦痛を与えないように指導するとともに、その動物に適度な休息を与えること。
2 販売
管理者及び飼養保管者は、販売に当たっては、次に掲げる事項に留意するように努めること。
(1)展示方法
販売動物の展示に当たっては、第3の1の(2)に定める施設に適合する施設において飼養及び保管するとともに、販売動物に過度の苦痛を与えないように、展示の時間及び当該施設内の音、照明等を適切なものとすること。
(2)繁殖方法
遺伝性疾患が生じるおそれのある動物、幼齢の動物又は高齢の動物を繁殖の用に供さないこと。また、みだりに繁殖させることによる過度の負担を避け、その繁殖の回数を適切なものとすること。
(3)販売方法
ア 販売の方法は、幼齢の動物における社会化期の確保等、販売動物の種類に応じ、その生態、習性及び生理に配慮した適切なものとすること。
イ 販売に当たっては、動物が命あるものであることにかんがみ、販売先における終生飼養の実施の可能性を、確実な方法により確認すること。
ウ 販売動物の販売に当たっては、その生態、習性、生理、適正な飼養及び保管の方法、感染性の疾病等に関する情報を提供し、購入者に対する説明責任を果たすこと。また、飼養及び保管が技術的に困難な販売動物については、終生飼養がされにくい傾向にあることから、このような販売動物に関する情報の提供は特に詳細に行うこと。
エ 野生動物等を家庭動物として販売するに当たっては、特に第1の2の定めに留意すること。また、特別な場合を除き、野生動物は本来自然のままに保護すべきであるという理念にもとる場合が少なくないこと等から、野生動物、特に外国産の野生動物等を販売動物として選定することについては慎重に行うこと。
オ 必要に応じて、ワクチンの接種後に販売するとともに、その健康管理並びに健全な育成及び社会化に関する情報を購入者に提供すること。また、ワクチン接種済みの動物を販売する場合には、獣医師が発行した証明書類を添付すること。
3 撮影
管理者及び飼養保管者は、撮影に当たっては、次に掲げる事項に留意するように努めること。
(1)撮影方法
動物本来の生態及び習性に関して誤解を与えるおそれのある形態による撮影が行われないようにすること。また、撮影の時間、環境等を適切なものとし、撮影動物に過度の苦痛を与えないようにすること。
(2)情報提供
撮影動物の貸出しに当たっては、撮影動物の健康及び安全の確保がなされるように、その取扱い方法等についての情報の提供を詳細に行うこと。
第5 準用
展示動物に該当しない動物取扱業が扱う動物の飼養及び保管については、当該動物の飼養及び保管の目的に反しない限り、本基準を準用する。
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